低環境負荷型居住システムの考え方
人間は生活する上で、住居のある敷地の外から様々な物資や水、エネルギーを取り入れ、使用した後に敷地の外へ、ごみや排水、廃熱、二酸化炭素を排出しています。この流れは近年、余りに一方向的であり、循環系はほとんど形成されていません。従って、水を浄化するエネルギーや発電時の燃料使用、排出するごみ・排水そのものとその処理などがすべて環境負荷となっています。本研究における低環境負荷とは、「敷地の外からのあらゆるINPUT量及び敷地の外へのあらゆるOUTPUT量が少ないこと」と定義し、可能な限り低環境負荷を目指した住宅における居住形態を、本研究では「低環境負荷型居住システム」と呼びます。
低環境負荷を目指すには、自然生態系との共生が必要不可欠です。図1に、その概念図を示します。
自然生態系は、光合成植物等の生産層と土壌微生物等の分解層の2層構造から成っており、太陽エネルギーを様々な形に変換・蓄積しながら有機物の生産と分解が繰り返され、物質循環が完結しています。古来の人間はこの仕組みに従い、その生活様式を自然生態系に組み込んで生活していました。この生活様式は当然、敷地内において永続型かつ低環境負荷型でした。
そこで本研究では、まずこの自然生態系の仕組みに従うことを原則とします。そして現代の居住システムをこの仕組みに組み込むための現代の要素技術は積極的に取り入れながら、古来に比べて環境負荷の大きな現代の生活様式を変革していくことで、低環境負荷型居住システムを構築するものとします。

図1 自然生態系との共生による敷地内低環境負荷概念図
図2に、エネルギー、水、廃棄物の各系において、INPUTからOUTPUTまでの流れの中に敷地内の自然生態系の仕組みを取り入れることで、各種環境負荷を低減するシステムの概念図を示します。従来型(1990年基準値)に対して、INPUT、OUTPUTともに大幅な削減効果が見込まれます。

図2 自然生態系を取り込んだ各系の収支概念図
図3にシステム概念図を示します。また、各系ごとのシステム構築の考え方以下にをまとめます。

図3 低環境負荷型居住システム概念図
(1)エネルギー系
本システムでは、建物建設に伴う廃材や敷地内で得られる樹木(落ち葉や成長分の薪)、日常的に排出される生活ごみ(厨芥ごみを除く可燃ごみ)の燃焼熱を使用したり、あるいは現代技術により敷地内の太陽エネルギーを変換して使用します。
樹木については、本エネルギー系システムの一部として敷地内に森林を設け、落ち葉・枯枝や樹木の成長分の薪の燃焼熱を利用します。この森林の面積を増加させるのに従って住居への供給熱量も増加するため、森林面積を調節することにより住居の暖房・給湯用エネルギーに関しては敷地内での自給を目指します。
(2)水系
本研究では、井戸水は地域により利用が限定されるため除外し、雨水の直接利用と、土壌微生物を利用した排水の敷地内浄化・地中浸透を検討します。
(3)物質・廃棄物系
現代では、化学製品などが多様化して敷地内の自然生態系の分解層では処理の困難なものが増加しています。ところが、敷地内処理可能なものもすべて敷地外処理に依存しているためごみ焼却場などに負担をかけている上、分解・還元可能な物質もその他の物質と同様の処理がなされています。
そこで本研究では、まず廃棄物の分別を徹底し、敷地内の土壌微生物により分解可能な厨芥ごみ等はコンポスト化して土壌に戻し、分解に適さない可燃性の紙ごみ・木屑等は燃焼してその廃熱利用を行います。その他、敷地内処理に適さないものに関しては、敷地外の適切な再資源化施設の処理に依存します。
(4)その他
どれだけ低環境負荷対策を施しても、それ以上の大量消費・大量廃棄の生活が行われれば無意味です。上記(1)から(3)の各系の考え方に沿ったシステムを実践することで、生活者に意識改革が現れ、ライフスタイル自体が低環境負荷型へと移行していくことが望ましく、「自然生態系との共生を目指したライフスタイル」も、低環境負荷型居住システムの概念の一部ととらえています。
Edited by 尾島俊雄研究室PRH研究会
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